VAD(補助人工心臓)

重症心不全と機械的補助循環

心不全は多くの場合,薬物治療が主体となりますが,急激に心機能が低下する場合には薬物治療では血行動態を維持できないことがあります。その代表は広範囲の心筋梗塞であり,収縮期血圧が90 mmHg以下になるいわゆる心原性ショックを伴う場合です。同様の心原性ショックはウィルスなどの感染から心筋全体に炎症を起こす急性心筋炎,特にその重症な場合の劇症型心筋炎でもみられます。

このような心原性ショックの治療に広く使用されているものが次の3つの補助循環です。1つ目は大動脈内バルンポンプIABPで(図1)、カテーテル治療を実施可能な多くの病院で使用されています。

【大動脈内バルンポンプIABP】

これは大動脈内にバルンを挿入し拡張と収縮を心周期に合わせて繰り返すことにより,冠動脈の灌流を維持し,また後負荷を減らすことで心収縮力を増加させます。主として,圧補助という意味で有用な補助となります。このIABPはリスクの高い冠動脈インターベンションや開心術の前後などにもよく使用されてきました。

しかし,収縮期血圧がほとんど触知不可能な程度にまで低下した重症ショック症例や心室細動・心室頻拍を繰り返すような致死性不整脈合併例などでは圧の補助だけでは全身の臓器灌流が保てないので,経皮的心肺補助PCPSを使用します(図2)。 

【経皮的心肺補助PCPS】

これは大腿静脈から挿入したカニュラで右心房から脱血して人工肺で酸素化した後,大腿動脈に返すシステムで,ベッドサイドでも挿入可能で緊急時にも間に合います。IABP同様,当院では24時間365日いつでも施行可能です。

1分間に約3リッター弱の流量は補助可能ですので,流量維持のためにはある程度の効果が期待できます。しかし,体格の大きい人の場合,また全身の炎症や感染合併による臓器酸素需要の増加など,様々な局面で流量が不十分となることがあります。

また,肺をバイパスするシステムの構成上,肺うっ血が高度の場合にはそれを直接治療することができません。そればかりか,動脈に返血するため,後負荷は増加し,肺うっ血はむしろ増悪することすらあります。心機能の改善が数日以内に生じた場合は速やかにPCPSから離脱することも可能ですが,それ以上長期化するとカニュラ挿入部からの出血や血小板減少などの合併症も無視できません。

なお,PCPS挿入時に強心薬の併用が必要かどうかという議論を時々聞きますが,心収縮力が極めて低下している状況で,強心薬が不要ということはありえないと思いますし,仮に強心薬なしでPCPSが循環補助として良好に成立するならば,むしろ強心薬を入れてPCPSをweaningすることを考えるべきでしょう。

さらにPCPSに血行動態が完全に依存している状況では自己の大動脈弁が開放せず,上行大動脈基部の血栓形成も懸念されます。高用量の必要はないですが強心薬は継続して,自己心拍出量をある程度維持して大動脈弁の開放を期待する方が良いし,また当初全く開放していなかった大動脈弁が次第に開放するようになるということを見ることによって自己心機能の回復度合いを測る指標にもなり,PCPSからの早期離脱も目指すことができます。


循環補助用ポンプカテーテル(IMPELLA®)

従来は,前述のIABPとPCPSしか心原性ショックに対し緊急で挿入可能なデバイスはありませんでしたが,2017年より循環補助用ポンプカテーテル(IMPELLA®)が我が国でも保険償還され,2018年3月より当院でも使用可能となりました。これは経皮的に挿入可能な小型の軸流ポンプを内蔵するカテーテル型の補助人工心臓で, 左心室を減負荷しながら全身に必要な血液を上行大動脈より送血します(図3)。

IMPELLA2.5, IMPELLACP, IMPELLA5.0の3種類があり, それぞれ最大2.5リッター 3.5リッター, 5.0リッターの補助が可能です。心原性ショックを伴う広範な急性心筋梗塞に対し, PCI(経皮的冠動脈ステント留置術)の前にIMPELLAを挿入することで梗塞巣の縮小が得られるとの報告もあり, IABPに代わってIMPELLAの使用が増えてきています。PCPSにIMPELLAを併用することで, PCPSの欠点である後負荷増大(肺うっ血の増強)を防ぐことができ, トータル4.5リッター程度の補助も得られますので, 左室を減負荷しながら強力な循環補助を得ることができます。

IMPELLA2.5とIMPELLACPは, 大腿動脈穿刺により内科医で挿入可能ですが, IMPELLA5.0は人工血管を介した挿入が必要で心臓外科の協力のもと挿入します。通常右鎖骨下動脈より挿入しますので, 坐位をとることができ, すみやかな肺うっ血と, 1分間に約5リッター弱の流量補助が可能で, 肝臓や腎臓の機能障害の改善が得られる患者さんを多く経験しています。

ただしIMPELLA2.5は長くて5-7日, IMPELLACPは約7-10日, IMPELLA5.0は最大約1か月間程度しか耐久性がありません。この間に心機能が回復し補助を終了することが目標ですが, さまざまな理由で長期補助が必要な患者さんには,後述する体外設置型補助人工心臓や植込型補助人工心臓に移行します。


体外設置型補助人工心臓

上記のように,PCPS, IMPELLAでは長期的な循環補助は不可能ですので,PCPSに関しては挿入後数日程度で, IMPELLAはその種類により耐久性の期間は異なりますが, 離脱困難な場合には体外設置型補助人工心臓への切り替えが検討されるべきです。切り替えのタイミングとしては他臓器の障害の程度,PCPS・IMPELLAに伴う合併症の程度や耐用日数によります。臓器不全は前述の肺うっ血は大きな要素ですが,臓器灌流の指標として総ビリルビン値及び血清クレアチニン値が2.5 mg/dL以内というのは1つの目安です。

体外設置型補助人工心臓には一時的補助を目的とする連続流型Rotaflowシステム(図4A)とさらに中期的補助を目指すNipro-Toyobo VADシステム(図4B)があります。

どちらも心臓外科の協力のもと,開胸が必要で左室心尖部脱血をメインとして左室のunloadingをはかりますので肺うっ血も比較的速やかに改善します。また,全身への流量補助も概ね1分間当たり4リッター程度は確保できますので,よほど体格の大きい方でなければ最低限の維持は可能です。体外設置型補助人工心臓を装着すれば心原性ショックで生死をさまよっている状況からリハビリ可能な状態まで復帰することがしばしば見られます(図4C)。

通常は左室補助だけで全身状態の改善を見ることが多いですが,心原性ショックの著しい例では右室の補助も必要で,その場合には両心補助を施行することにしております。両心補助をするかどうかの見極めなどはこれまでの経験によりスコア化された指標があります。

このようにさらに進んだ補助循環を当院では心臓外科との協力のもと,北陸3県で最も進んだ知識の裏付けで進めて参りたいと思っています。重症心不全の最後の砦となるという意気込みで全員張り切っております。


植込型補助人工心臓

ただ,体外設置型補助人工心臓では院内使用限定で退院ができません。2011年以降は我が国でも植込型の補助人工心臓が次々と認可され,
現在では5機種使用可能です(図5)。

この植込型を装着すれば在宅医療が可能で,ほとんどの患者さんが日常生活に何不自由なく,多くの患者さんが復学,復職を実現しておられます(図5左・右下)。

ということで,一旦体外設置型を使用した心原性ショックの症例でも条件が整えば,3ヶ月程度で植込型にコンバートしております。
この植込型に関しては実施施設としての認定が必要で,当院は2019年に認定を受けました。植込型補助人工心臓は院内での管理のみならず,在宅での患者さんならびにご家族の協力,その指導に当たるコメディカルの協力も欠かせません。多職種にまたがるハートチームの構築が現在進んでおります(図6)。

植込型補助人工心臓は従来移植適応患者に限定されております関係上65歳以上の患者さんには植込み治療は原則不可能でした。しかし,ようやく2021年に移植適応外の患者さんへも補助人工心臓治療が保険償還されます。
残念ながら,現在では治験施設のみでしか植込み手術は認可されていませんが,いずれは当院でも移植適応外の患者さんに対する植込み手術ができるよう準備を進めております。今後の富山大学ハートセンターにご期待ください。













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